今年度のホームカミングデーでは、繊維学部長 村上 泰 先生および帝国繊維株式会社 代表取締役社長 桝谷 徹 様よりご講演いただいた。
まず村上先生より、「社会に開かれた繊維学部に」という演題で、社会の要望に応えた問題解決に関する繊維学部の取り組みの一端についてお話いただいた。周知のとおり繊維産業は、大量生産・大量消費・大量廃棄が課題となっている。繊維学部では、これらの課題に先駆的に取り組み、サステナビリティを志向した問題解決を目指すプロジェクトが進行中である。繊維は、天然から化学合成品まで幅広い素材がある。また繊維産業は、裾野の広い産業構造が特徴でもある。このような繊維のおかれた状況の中で、サステナビリティを志向した諸問題の解決には、原料から廃棄に至る一連の工程すべてを評価するライフサイクルアセスメント(LCA)が重要であることが示された。この中で、繊維製品の製造プロセスにおけるCO2排出に注目したLCAに関して、繊維製品検査機関と連携した取り組みが紹介された。アパレル業界で活躍する繊維学部卒業生の尽力により、普段は競合他社である複数の繊維検査機関が集結し(2023年4社、2024年6社)、コンソーシアムが結成できたとのことであった。まさに繊維学部の強みが発揮された事例ではないかと感じた。また、かねてより社会的意義や役割を意識した繊維教育の必要性が、繊維学部には求められている。それを受け、問題解決型学習(PBL)を実施することにより、産学で社会問題を共有しその解決案を協働して提案するプロジェクトも進行中であるとの説明もあった。これらのプロジェクトを基盤とし、自分で考え進めることができる人材、すなわち「自走する人材」となれるよう教育研究を推進しているとのことであった。
続いて、桝谷様から「繊維事業から防災事業への転換」という演題でお話しいただいた。帝国繊維は1907年(明治40年)に帝国製麻として設立されて以来(1941年に帝国繊維と社名変更)、100年以上の歴史を誇る企業である。講演では、麻に関する繊維事業の変遷、および最近の防災事業への取り組みをご紹介いただいた。初めに、帝国繊維の倉庫に眠っていた38ミリフィルムを編集したドキュメンタリー、「帝国繊維 麻100年の歴史」を拝見した。近代産業の黎明期、北海道の大地で豊かに育つ麻、そして麻とともに力強く生きる人々の営みが伝わってくる映像であった。その後、現在の事業展開に関して、紹介いただいた。防衛省、警察、海上保安庁で利用されているテントや作業服・制服、また一般的な生活リネンやファッションリネン製品、さらにテトロン繊維と樹脂を使った消防用ホースの製造などの話を伺った。これらの繊維事業は時代の変遷とともに規模が小さくなったものの、安心・安全・快適を提供するエッセンシャルな事業として展開されているとのことであった。次に、主力事業へと転換されている防災事業に関する内容となった。全国各地の空港に配備されている特殊消防車の製造、原子力発電所の原子炉冷却/飛散抑制送水システム車、石油コンビナードなどの火災に対応した消火システム車、災害対応用の排水ポンプなど繊維事業とは全く異なる分野での事業展開について説明いただいた。いずれも、災害時に重要な役割を担う製品であり、独自性が非常に高い事業を展開されていることがわかった。今後はこれらの製品開発で培った独自技術を活用し、災害発生時の生活用水を供給するシステムへの展開を目指すとのことであった。災害時の対応では、これまで消火や救助に目が向けられることが多かった。しかし最近の自然災害の状況をみると、今後は災害後の生活維持にも対応が必要なことが講演では指摘されていた。折りしも国は、避難所では災害被災者などの生活環境の基準などを定める「スフィア基準」を、発災後早急に満たすと発表したところである。帝国繊維での取り組みを伺い、災害発生時には生活面を支えるシステムも必要であることを改めて認識する良い機会となった。

